暗殺教室 3年E組の前原君。 容姿端麗で、かつては多くの女子からモテていたが、最下層のクラスに落とされてからは蔑視の対象になってしまう。
付き合っていたはずの彼女は、他クラスの優等生に寝取られ、その上、言うにこと欠いて「(前原君と別れる羽目になったのは)あなたに原因がある」と居直られてしまう。
その一部始終を見ていたクラスメイトは、傷心の前原君をいたわりながらも“What a bitch!!(なんてビッチだ!)”と怒りを露わにする。 そんな場面から。
(c) 松井優征 2013, 2013 『Assassination Classroom, Vol. 3』より
I don't care if she is a bitch.
You don't?!
「あいつがビッチかどうかなんてどうでもいい」
「そうなの!?」
少年誌だけど bitch という卑語はセーフらしい(ちなみにFワードはさすがにダメだったらしく、米国版ではしっかり差し替えられていた)。
if she is a bitch. は名詞節である。 従属接続詞 that / if / wether は名詞節を作る(副詞節も作る)。
ここでは Yes / No疑問文を名詞節に変えた間接疑問文で、「ビッチかどうかなんて気にしない」くらいの意味になる。
↓
Falling in love is easy. So is falling out of love.
When I do... I move on.
「恋に落ちるのは簡単だ。恋から冷めるときだって同じ。俺も気持ちが冷めたら…… 別れて次へ行くよ」
好きだった気持ちが呆気なく冷めてしまうのは彼女に限ったことではない。恋愛とはそういうものだし、心が離れたら相手に別れを告げて次へ進む──(※ 超訳)。
この英文の3点セットはなかなか技巧的でおもしろい。
まず1文目はなんの変哲もないSVCの文なので説明は不要だろう。
続くSo is falling out of love. は、いわゆる倒置構文で、主語と補語の語順が逆転している。
この倒置構文は、Duo Selectにも“So am I(私も同じ)”の形で出てくる。 直前の文を受けて、異なる主語に対しても同様だと述べたいときにこういうカタチになるらしい。
ここでは「恋に落ちるのは簡単だ。同じく、恋から冷めるのも簡単だ」となかなかキザなセリフを吐いている。
When I do... の do は、代名詞ならぬ代動詞と呼ばれる代物で、同じ動詞(を含むフレーズ)の繰り返しを避けるために用いられる。 身近なところでいうと、“Yes, I do.” の do も代動詞である。 ……さらに余談だが、“Do you play the guitar?” の Do は代動詞ではなく助動詞(= do助動詞)である。
話を戻そう。
代動詞で省略的に表記されている箇所は、本来は直前の“is falling out (of love)”の繰り返しを避けるためと解釈できる。
つまり、「俺が恋から覚めたとき……」と少し言い淀んでから“I move on.”と続く。めちゃくちゃ訳しづらいのだが、まず文法的なところからいくと、move onは句動詞である。 文末に名詞が省略されているわけではなく、move onで一つの動詞である。
そして、move on の時制は現在形なので、「いつだってそうする」みたいなニュアンスを含んでいる。 何回恋が終わろうが、毎回、気持ちを振り払って先に進むのだ、みたいな感じだろうか。
↓
It's your third year in juniour high and you're already into some kind of Zen dating?!
「あんた、中3なのに、既に何かの悟りの境地で人と付き合ってんの?」
文頭の It は、「時間のit」と呼ばれるやつで、通常は訳さない。 “It is Monday today.”のItと同じである。
“Zen dating”も和訳にかなり困った。
文法的にもこの2語の関係性は掴みどころがない。 どっちも名詞のようにも見えるし、一方が他方を修飾しているようにも見える。 名詞が2語連続するパターンは珍しいが、“boy friend”とか“school life”とかのように熟語的に名詞を並べることはあり、“Zen dating”もその類だろうと解釈した。
誰だって人から嫌われたり恨まれたりするのは怖いもので、破局しても心にわずかな漣さえ立てない境地に至るには、中3は早すぎる。