暗殺教室の修学旅行編より。
今回は、旅先の宿で 殺せんせーと烏間が互いを探り合うシーン。
英文自体はそこまで難しくはないものの、登場人物の心理を読まないとまったく意味が繋がらないという厄介な場面である。
文法的には、疑問詞と形式主語構文が今回のポイント。
(c) 松井優征 2013, 2013 『Assassination Classroom, Vol. 3』より
What do you want? What's with all the noise?
The students tried to make me talk about my ex-girl-friends.
Ex-girl-friends...?
(突然現れた殺せんせーに対して)「何の用だ? 何なんだこの騒ぎは?」
「生徒たちが、昔の元カノについて訊きだそうとしてきたんですよ」
「元カノ……?」
修学旅行で羽目を外した生徒たちの質問攻めから逃れてきた殺せんせー。
語るに落ちてしまい、元カノがいたことが判明してしまう。
殺せんせーのセリフには、原形不定詞が登場する。 make / have / let などの補語は動詞の原形。 ここでは「私に、過去の恋バナをさせようとした」みたいな意味になる。
なお、Ex-girl-friend は、なぜか Duo Selectにも載っている重要単語である。 こんなの載せるくらいならもっと大事な単語はいくらでもあったろうに。
それはさておき、自らの過去をほとんど語らない殺せんせーが、浮かれ半分でプライベートの片鱗を覗かせるさまに、烏間は虚をつかれてしまう。
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(c) 松井優征 2013, 2013 『Assassination Classroom, Vol. 3』より
Sure! I've had tons!
I don't have enough arms and legs to count them all!
...
「もちろん! そりゃもうたくさんいましたよ! 手足ぜんぶ使っても数え切れないくらい!」
「……」
tons は「たくさん」という意味らしい。
I've had tons. と現在完了形になっているのは、「元カノがたくさんいた」 → 「今でも語れる恋バナをたくさん持っている」という感じで、“イマ”に影響を与えているニュアンスを感じる。
ただ、お尋ね者の殺せんせーが、こんな軽率な発言をして、当事者に迷惑がかかるかも知れないと考えなかったのだろうか。 あまりの脇の甘さに、烏間の目つきも険しくなる。
↓
(c) 松井優征 2013, 2013 『Assassination Classroom, Vol. 3』より
Are you talking about a time when you only had two arms and two legs...?
...
「お前の手足が2本ずつしか無かった頃の話をしているのか……?」
「……」
殺せんせーは、まるでタコのような姿をしており、その過去は依然として謎に包まれている。
烏間は遠回しな表現で「お前も以前は人間の姿をしていたんだろ?」と殺せんせーに鎌をかけているのだ。
先ほどまで浮かれていたはずの殺せんせーも急に沈黙し、2人の間に緊張が走る。 緊迫したシーンである。
さて。
when... 以降は形容詞節として、先行詞の time を修飾している。
また only had は、現在のように大量の触手はまだなかった頃 ── 人間と同様、2本の腕と2本の脚「だけ」があったとき ── というニュアンスを表していると思われる。
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(c) 松井優征 2013, 2013 『Assassination Classroom, Vol. 3』より
So... I'm guessing you're not going to tell me either.
You're wise not to force the issue, Karasuma. Even on a school trip, it's rude to ask how many limbs someone used to have.
「まぁ…… お前もどうせ俺に話すつもりなんかないんだろ」
「無理強いしないのは賢明です、烏間先生。 たとえ修学旅行中でも、手足が何本だったか尋ねるのは失礼でしょう」
ここまでの一連のやり取りには、わびさびというか言外の意味が多分に含まれている。 セリフの文字だけでは状況が分からないので、ぜひ絵と一緒に鑑賞していただきたい。
痛いところを突かれた殺せんせーがぴたりと会話を止めてしまったので、何かを察した烏間は「お前も話したくないんだろ(俺も別に無理して訊き出したい訳じゃない)」と呟くのだ。
それに対して殺せんせーは、烏間の質問の真意を分かっていながら、敢えて言葉の表面をなぞるように素っ気ない返答をしてみせる。 自分がかつて人間だったかどうかの核心には触れず、「手足の本数を人に訊くなんて行儀のいい会話とはいえませんね」と軽く遇らうのだ。
さて、
殺せんせーのセリフには、形式主語構文と間接疑問文が使われている。
〈Even on a school trip,〉it's rude [to ask [ how many limbs someone used to have.] ]
まず、it's rude to 名詞のカタマリ で、「名詞のカタマリは失礼だ」となる。
ということは、to ask は不定詞名詞用法だ。
で、さらに ask の目的語が続くはずで、目的語の役割を果たす品詞は名詞だけなので、 how many ... のカタマリは間接疑問文か間接感嘆文のはずだと読み進められる。
文脈的に、間接感嘆文はまずありえないので、間接疑問文で「かつて、誰かさんが何本の手足を持っていたか(ということ)」で構造と意味が確定する。
── というわけで、前半はさておき、後半はなかなか読み応えのある文だった(※ この記事も、当初は後半部分の英文だけを紹介するつもりだったが、それだとあまりにも意味が分からなすぎたので、キリのいいところまで遡って書き足した)。