先日、後輩が会社を辞めた。
彼は他部署の人間であったが、入社早々(厳密には新人研修後)に、僕のいるプロジェクトに放り込まれてきたことで繋がりが生まれたという経緯がある。
彼は文系出身だったため、はっきり言ってITリテラシーは決して高くはなかったが地頭は良く、困っていることをはっきり言語化して周囲に助けを求めるスキルには長けていた。
── あれから3年の年月が流れた。 当時のプロジェクトはとうに解散し、僕はまったく関係ない案件に忙殺されていた。
そんな8月のある日、僕のもとに、彼から退職の挨拶メールが届いた。 突然のことに頭が真っ白になった。
根掘り葉掘り聞く気はなかったものの、断片的な話を拾うと、どうやら彼は自分の能力と適性に限界を感じ、退職を決意したようである。
初めはアプリケーションエンジニアを目指していたが、恐らくそこで一度目の挫折を味わい、インフラの道に転向したもののそこもしっくりこなかったらしい。
ただ、去り際に
『たーせるさんのようなエンジニアになりたくて、技術を極めようと思いましたが修羅の道でした』
『勉強の刺激も貰って、この前、応用情報技術者試験に受かりました』
と屈託なく言われた。
まず何より、僕を追いかけてくれていたことが嬉しかった。
部署も違い、業務上の接点もなくなっていたはずなのに、彼は新人時代に見た僕の姿をずっと覚えていたそうだ。
応用情報技術者試験の合格も嬉しそうに話してくれた。 彼にとって畑違いの分野を一から勉強するのは容易ではなかったろう。
僕はこういうとき、気の利いた言葉をかけるのが苦手である。 ただ一言、転職先でもお元気で ── という他なかった。
彼は新天地へと旅立って行ったが、最近の僕は初心を忘れて傲慢になりつつあると気付いてしまった。
(つづく)