2021年良かった本10選

暮れも押し迫ってきたので、毎年恒例の企画です。

今年は選ぶのにかなり苦労しました。

というのも、今年はいろいろ読み過ぎて上半期に買った本をすっかり忘れていたからです。

そういえば、今年はいつも本を読んでいたね。
見かけるたびに新しい本を買っていた気がする。

うん。

なので、その分コアなおすすめが出揃いました。

よし!

それでは、2021年の「よかった本」カウントダウン!



英文法のトリセツ 中学レベル完結編

今年の初めに英語と仲直りしようと何度目かの決意をして読んだ本。 もはや僕が解説するまでもなく、この『トリセツ』シリーズは10年以上売れ続けているロングセラーである。

ではなぜ今さらこの本を紹介するかというと、この最終巻だけレベルが違うから。 つまり、前2作は問題なく読破できても、今作になって挫折する危険性が高く、中身の良さに気付けないまま本棚にしまい込んでしまった人もいるのではないかと思い、その良さを再認識していただきたく、敢えて載せた次第である。

一方、『中学レベル卒業編』は、『じっくり基礎編』『とことん攻略編』で(話を簡単にするため)敢えてごまかしてきた話としっかり向き合い、多くの伏線を回収している。

それだけに、きちんと理解した上での読後感はひとしおである。 英語やり直し組の大人の方にもぜひお勧めしたい。

大学入試 うんこ英単語2000

DUO(デュオ)セレクト: 厳選英単語・熟語1600』を何周もしすぎていい加減飽きてきたので、つい魔が差して買ってしまった。

この本の最大にして唯一の特徴は、例文すべてに「うんこ」が配合されていることである。 そのため、単語とその意味だけを覚える学習スタイルには合わず、例文を楽しむ余裕のある(受験勉強に追われない)大人こそ買うべき本だろう。

例文のクオリティが無駄に高く、英作文でパクれそうな便利な言い回しが普通に出てくる。 ウンコさえ除けば。

ただし(DUOほどではないが)文法知識が足りていないと読解がきついかも知れないので、ライトな大学を目指す高校生がネタで買うと本気で後悔するかも知れない。

仕組みと使い方がわかる Docker&Kubernetesのきほんのきほん

この本の最終到達レベルは、『さわって学ぶクラウドインフラ docker基礎からのコンテナ構築』と同じくらい(kubectlコマンドの基本的な使い方を抑えるところまで)で、正直なところどちらも甲乙つけがたい。

この本は、コンテナ、ボリューム、Pod、サービス、……といった、混乱しがちな概念を擬人化と絵解きでわかりやすく説明している点・docker compose や Kubernetes の設定ファイルの意味するところをひとつひとつ読者に解き明かしている点が嬉しい。

初学者は、いきなり長大な yaml ファイルを写経させられると「よくわからないことをやらされている感」が蓄積してモチベーションが砕け散るので、そういうことが起こらないようになっているだけでもだいぶ敷居が下がる。

かわいい表紙と裏腹に、「強者コラム」という玄人向けの挿話なんかもあり、新人エンジニアだけでなく非インフラ系アプリケーション開発者が読んでも十分に楽しめるし為になる。

初めてのWebGL 2 第2版 ―JavaScriptで開発するリアルタイム3Dアプリケーション

WebGL 2(と、シェーダ言語 ESSL)の基礎的な内容を解説した貴重な1冊。 夏休みに買って、夢中になって読んだ。

難易度は高めというか、予備知識としてレンダリングパイプラインの働きや大学初年級レベルの線型代数を理解していないと、ちょっとついていくのはしんどいかもしれない(ぶっちゃけ、ところどころ数式が怪しい点があり、僕も検算しながら読み進めた)。

解説が難解な割に到達レベルはあまり高くはないものの(せいぜい剛体にテクスチャを貼るくらい)、しかし、プラットフォームを選ばず Web ブラウザで動作する 3D アニメーションを一から作っていく感覚はなんとも言えず楽しい。

IoTデバイス×Webアプリでホームネットワーク AWS クラウドサービス開発テクニック

IoT 連携という面白い切り口に特化した本である。

クラウドサービスに AWS を用いる以外は、IoT デバイスも利用言語も各章で異なるオムニバス形式で構成されている。

さすが AWS 社の社員が書いただけあって、各種サービス(IoT Core, Amplify, Greengrass 等)を巧みに組み合わせておもちゃを作るさまは、まるで大人版のつくってあそぼを見ているようだった。

どこから読んでも面白いのだが、一抹の危機感もある。 本書を読めば、たとえば昨今のコロナ禍で需要が高まりつつある「混雑状態の見える化」などが意外と手軽に手作りできてしまうので、これまでそういうソリューションを売っていた業界の人たちは、きっと内心「参ったなぁ」と思うのではなかろうか。

Pythonではじめる数理最適化: ケーススタディでモデリングのスキルを身につけよう

先の『IoTデバイス×Webアプリでホームネットワーク AWS クラウドサービス開発テクニック』を読み、アイディアだけでは潰されるということが分かったので、もう少し下地を固めたいなぁと思い買った。

本書で触れる話題は、「学校のクラス編成」や「輸送車両の配送計画」など、実践的で興味深いものが多い。 これらはなかなかシステム化が進まず、勘と経験に頼った属人的業務になっていないだろうか。

現実の問題に対して、数理最適化という手法がどのように適用されるのか。 また、具体的にどのように実装されるか、といった実践的内容がまとまっており、なるほど、こういうアプローチがあるのかと目から鱗が落ちた。

なお、『初めてのWebGL 2 第2版 ―JavaScriptで開発するリアルタイム3Dアプリケーション』ほどではないが、本書も高校の数学II程度の予備知識を要する。

マンガでわかる微分方程式

先の『Pythonではじめる数理最適化: ケーススタディでモデリングのスキルを身につけよう』を読み、時系列で変化するデータの未来予知を数理モデルで解決してみたくなり手を出した本。

常微分方程式というと、絢爛豪華な計算テクニックに目が行きがちだが、この本は微分方程式が現実の世界でどう役立つのかに焦点を当てており、マンガという親しみやすい媒体も相まってラクに読める。

この本は、期末試験や院試が迫った時期にあわてて読むものではない。 コロナ禍でやることが無くなった社会人が教養のために読むと、かつて学んだ微分方程式と現実世界に橋が架かっているように見えるだろう。

デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場

かつて、くりのぶかずという登山家が多くのメディアから注目を浴びた。

冒険の共有というスローガンで多くのスポンサーから支持を集め、一見順風満帆そうにも見えたが、ある時を境に登山家たちから次第に疑惑の目を向けられるようになる。 そして、彼の主張する無酸素・単独登頂という実績も、一般的な登山界の基準にそぐわないものとして、界隈から黙殺された。

晩年はエベレストに何度も挑んでいたようである。 無酸素登頂を謳ってこそいたが、毎度のごとく酸素ボンベが必要になる標高にそもそも達しないうちから下山を繰り返しており、ネット上では「プロ下山家」と呼ばれるようになっていった。 スポンサーも離れていったことだろう。

やがて彼は焦りを募らせたのか、実力に見合わない無謀な目標設定を繰り返すようになり、最期はエベレストの最難関ルートの南西壁に挑もうとして敢えなく滑落死した。

最後の挑戦は、誰がどう見ても取り返しのつかないものであった。 彼はいったい何故、引くに引けなくなったのか──。

彼を取り巻く社会を鋭く分析した一冊であり、あらゆる言外の教訓に満ちている。

現代経済学の直観的方法

広範な経済学のエッセンスが凝縮されており、さらに切れ味の鋭い口調で綴られている。

残念ながら僕は経済学のことがまったく分からないので、本書の面白さを的確に伝えるリテラシーは無いが、往年の名著『ゲームプログラマになる前に覚えておきたい技術』の語り口を彷彿させる。

我々は資本主義社会に暮らしており、継続的に経済成長を続けなくてはならないという十字架を背負っている。 ではなぜ、成長し続けねばならないのか、そこに「金利」というキーワードを用いた明解かつ弁舌さわやかな著者の論が光る。

読み進むたびに「ふむふむ、なるほど」と抵抗なくその物語が染み込むあたり、それが『直観的理解』たる所以なのだろうと思う。

ぜひ、タイトルの硬さに臆することなく手に取っていただきたい。

だめっこどうぶつ (11) (バンブー・コミックス)

17年の長きに亘る連載が、ここに完結した。 子供の頃から愛読していた身としては一抹の寂寥感を抱く。

この作品は、狩が苦手で群れを追われた独りぼっちのダメなオオカミが、安住の地を見つけ、友達を増やしながら少しずつ成長していく物語である。 絵柄は子供向けだが、セリフにはルビが振られておらず、哲学めいた問いが随所に挟み込まれる大人向けの作品である。

ストーリー自体は在って無いようなものだったが、最終的にはある意味ハッピーエンドだった。

めちゃくちゃ面白いというわけではなかったが、この作品と出会えたこと、そして完結を見届けられたことは神と関係者すべてに感謝するものである。

うる野くん、楽しいひとときをありがとう。


というわけで、今年も10冊を紹介しました。

だいぶチョイスが偏ってるね……。

本当は、紹介したい本が他にもあるのですが、レベル的に僕の及ぶところではない本なんかもあって、残念ながら選外になっちゃったものもありました。

たしかに、 OAuth本とか、戦略ゲームAIとか、買ったけど読み終えてない本とかがまだまだあるね

それらも追い追い消化できたらと思います。

さしあたり、今年はこんなところで。

みなさま、よいお年をー。

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