儚い金魚と地に満つネズミ

こんにちは。 Apple Watch Series 7を予約した たーせるです。

それはさておき、先日、おともだちと LINE でこんなやりとりをしました。

昔、でめきんが大好きでしたが、ひぶなよりも弱く、すぐに死んでしまうのでした」
なんて酷な」
儚きものが好き」
ハツカネズミなど」

三者から見てあまりにもわかりにくいのでちょっと補足すると、でめきんのような儚い小動物が好きだという僕に、友人がハツカネズミもオススメだよと言っている謎シチュエーションです*1

ちなみにハツカネズミはちっとも儚くないと思うので却下です。

ハツカネズミは、20日で倍々に増えると聞いたことがあるような……。

めちゃくちゃ繁殖力が強いらしいですね……。

ネズミ算っていう言葉があるくらいですから。


そんなわけで今日は、ハツカネズミは儚いどころかやべぇ生き物だぞというのを数理的にシミュレーションしていきたいと思います。

微分方程式を使って考えるネズミの増え方

まず初めに、ネズミの増え方は「生まれたネズミの数 - 死んだネズミの数」で決まると考えることにしましょう。

ネズミが生まれれば個体数は増えますし、死ねば減るというシンプルな発想です。

さらに、話を簡単にするため、どちらも今いるネズミの総数に比例すると仮定しましょう。 すなわち、元々ネズミが多ければ多いほど、単位時間あたりに生まれるネズミも死んでしまうネズミも多くなると考えます。

前置きが長くなりましたが、時間  {t} におけるネズミの個体数を  {N(t)} と置き、ネズミの増加率 {\dfrac{\mathrm{d}N(t)}{\mathrm{d}t}} が個体数 { N(t)} に比例することを以下の数式で表します。

 { \dfrac{\mathrm{d}N }{\mathrm{d}t} = k N }

 {k}ってなに?

比例定数ですね。

これは現実の世界を観測しないと定まらないので、ちょっと気持ち悪いけど今はそのままにしておいてください。

これは変数分離形の微分方程式で、呼び名はさておき解くためのコツがあります。それは、左辺と右辺にそれぞれ変数を寄せることです。

とりあえず右辺の {N}が邪魔なので、両辺を{N}で割ります。

 {
\begin{align}
\dfrac{\mathrm{d}N }{\mathrm{d}t} &= k N \\
\dfrac{1}{N} \! \cdot \! \dfrac{\mathrm{d}N }{\mathrm{d}t} &= k 
\end{align}
}

両辺を  {t}積分してみましょう。

 {
\require{cancel}
\begin{align}
\displaystyle\int \dfrac{1}{N} \! \cdot \! \dfrac{\mathrm{d}N }{ \cancel {\mathrm{d}t}} \cancel{\mathrm{d}t}  &= \displaystyle\int k \, \mathrm{d} t \\
\displaystyle\int \dfrac{1}{N} \mathrm{d}N &= k \displaystyle\int \mathrm{d} t
\end{align}
}

このような感じで、左辺は  {N} だけ、右辺は  {t} だけの式になりました( {k}は定数なのでノーカン)。

それでは両辺をそれぞれ計算してみましょう。

 {
\begin{align}
\textrm{(左辺)} &= \displaystyle\int \dfrac{1}{N} \mathrm{d}N = \log \left| N \right| + C_{1} \\
\textrm{(右辺)} &= k \displaystyle\int \mathrm{d} t = kt + C_{2}
\end{align}
}

よって、積分定数 {C_{1}}{C_{2}}をひとつにまとめて({C_3})、以下の式を得ます。

 {\log \left| N \right| = kt + C_{3} }

さらにこれを {N} について解くと、以下を得ます。

{
\begin{align}
N(t) &= e^{kt + C_{3}} \\
&= e^{C_{3}}e^{kt} 
\end{align}
}

 {e^{c_{3}}} は定数なので、これを改めて  {C} と置くと、結局 {N(t) = Ce^{kt} }となり、結論として「ハツカネズミは放っておくと指数関数的に繁殖してしまう」という予測が示唆されます。

……と、ここまで書いておいてなんですが、この方程式は別にハツカネズミだけのものではなく、人間だろうが金魚だろうが放っておけば増えることには変わりはなく、少なくとも実際に {C} {k} を当てはめた上で比較しないとマトモな結論は出ないものです。

また、この直後のコラムでも述べますが、今回の方程式は非常に簡易的な仮定に基づいており、長期的な予測では使い物にならないことが分かっています。 まぁでも、微分方程式を立ててちょっと先の未来を予知するのって面白い試みだなぁと思いました(なしくずし的におしまい)。

ここでご紹介した微分方程式は、イギリスの経済学者マルサス (T. R. Malthus) が『人口論』の中で述べた数理モデルで、適用範囲を限定するとかなり現実に近いことが分かっています。

しかしながら、実際には住処も食料も有限ですので、この方程式が示すとおり個体数が爆発的に増加することはありえず、いずれどこかで限界がくるでしょう。

そこでマルサスの方程式に個体数増加の阻害要因をもう少し加味した数理モデルを、のちにベルギーのベルフルスト (P. F. Verhulst) が作り直すのですが、それはまた別の機会に。

コラム: マルサスの個体数モデル

計算のおさらい

ここからは、本文中で端折った計算の補講みたいなものです。

なんで {\dfrac{1}{N}}積分すると {\log \left| N \right|} になるの?

そりゃ、{\log \left| N \right|}微分すると {\dfrac{1}{N}} になるんだから、積分すれば元に戻るよ。

なんで {\log \left| N \right|}微分すると {\dfrac{1}{N}} になるの?

このお話をするため、ネイピア数 {e} の復習から始めます。

実は、{ \left(  1 + x \right)^{\frac{1}{x}}}{x} を限りなくゼロに近づけていくと、とある定数に収束することが分かっており、この数はネイピア数  {e} と呼ばれています。

{ e = \displaystyle\lim_{x \rightarrow 0}  \left(  1 + x \right)^{\frac{1}{x}}}

この {e} は、自然対数のていとも呼ばれており、特に  {e} を底とする対数  {\log_{e} x} は、しばしば {e} を省略して  {\log x}、もしくは  {\ln x} と表記されます。

文献によっては  {\ln x} という表記が好まれることがありますが、僕は  {\log x} で習ったのでこちらの表記を使います。


これらを踏まえて、 {\log \left| x \right| }(ただし  {x \neq 0})の導関数 {\dfrac{1}{x}} になることを確かめてみましょう。

この話は、 {x > 0} のときと {x < 0} のときで場合分けをして考える必要があります。

まずは、考えやすい  {x > 0} のときについて考えましょう。導関数の定義から、

 {
\begin{align}
\left( \log  \left| x \right|  \right)' &= \displaystyle\lim_{\Delta x \rightarrow 0}\dfrac{\log \left(  \Delta x + x \right) - \log x }{\Delta x} \\
&= \displaystyle\lim_{\Delta x \rightarrow 0} \dfrac{1}{\Delta x} \log \left(  \dfrac{x+ \Delta x}{x} \right) \\
&= \displaystyle\lim_{\Delta x \rightarrow 0} \dfrac{1}{\Delta x} \log \left(  1 + \dfrac{\Delta x}{x} \right) \\
&= \displaystyle\lim_{\Delta x \rightarrow 0} \dfrac{1}{x} \! \cdot \! \dfrac{x}{\Delta x} \log \left(  1 + \dfrac{\Delta x}{x} \right) \\
&= \dfrac{1}{x}  \! \cdot \! \displaystyle\lim_{\Delta x \rightarrow 0}  \dfrac{x}{\Delta x} \log \left(  1 + \dfrac{\Delta x}{x} \right) \\
&= \dfrac{1}{x}  \! \cdot \! \displaystyle\lim_{\Delta x \rightarrow 0}  \log \left(  1 + \dfrac{\Delta x}{x} \right)^{\frac{x}{\Delta x}} \\
\end{align}
}

ここで、 {a = \dfrac{\Delta x}{x} } と置くと、 {\Delta x \rightarrow 0} のとき {a \rightarrow 0}なので、

 {
\begin{align}
\left( \log  \left| x \right|  \right)' &=  \dfrac{1}{x}  \! \cdot \! \displaystyle\lim_{\Delta x \rightarrow 0}  \log \left(  1 + \dfrac{\Delta x}{x} \right)^{\frac{x}{\Delta x}} \\
&=  \dfrac{1}{x}  \! \cdot \! \displaystyle\lim_{a \rightarrow 0}  \log \left(  1 + a \right)^{\frac{1}{a}} \\
\end{align}
}

さらにネイピア数の定義より{\displaystyle\lim_{a \rightarrow 0}  \left(  1 + a \right)^{\frac{1}{a}} = e} なので、

 {
\begin{align}
\left( \log  \left| x \right|  \right)' &=  \dfrac{1}{x}  \! \cdot \! \displaystyle\lim_{a \rightarrow 0}  \log \left(  1 + a \right)^{\frac{1}{a}} \\
&=  \dfrac{1}{x}  \log e \\
&= \dfrac{1}{x}
\end{align}
}

これで、{x > 0} のとき  { \left( \log \left| x \right| \right)' = \dfrac{1}{x}} になることが分かりました。

続いて {x < 0} の場合について、 {y = \log \left( t \right),\, t = -x } と置いて考えましょう。

このとき {t} は必ず正になり、さらに合成関数の微分 { \dfrac{ \mathrm{d}y }{ \mathrm{d}x } =  \dfrac{ \mathrm{d}y }{ \mathrm{d}t } \! \cdot \! \dfrac{ \mathrm{d}t }{ \mathrm{d}x } } を用いて以下のように示せます。

 {
\begin{align}
\left( \log \left| x \right|  \right)' = \dfrac{ \mathrm{d}y }{ \mathrm{d}x } &= \dfrac{ \mathrm{d}y }{ \mathrm{d}t } \! \cdot \! \dfrac{ \mathrm{d}t }{ \mathrm{d}x } \\
&=  t' \! \cdot \! \left( \log t \right)' \\
&= \left( -x \right)' \! \cdot \! \log t \\
&= -1 \! \cdot \! \dfrac{1}{t} \\
&= \dfrac{1}{x} 
\end{align}
}

以上より、 {x}が正であっても負であっても、{ \left( \log \left| x \right|  \right)' = \dfrac{1}{x} } になるのでした。

おまけ

そうそう、大学時代に買った参考書に、おもしろい練習問題があったのでついでに紹介しておこう。

いやまだ続くんかい。

放射壊変のシミュレーション

放射性崩壊は,まったく確率的に起こる。すなわち,ある定まった短い時間に崩壊する放射性原子核の個数は,そのとき存在する放射性原子核の総数に比例して定まる。このことから,時刻  {t = 0} にその残存量が  {N_0} であった放射性原子核の時刻 {t} での残存量を求めよ。ただし,単位時間における崩壊の比率を  {k} とする。

単位が取れる橋元流物理数学ノート (単位が取れるシリーズ)』 p.135より

演習問題 9-1

うぁぁ……。

何いってんのかさっぱり分からない……。

落ち着いて。

放射性原子核とか放射性崩壊とかは見かけ倒しだよ。

これも、ただ少しだけ言い回しが難しくなっただけで、先ほどのネズミの話と考え方はほとんど一緒です。

 {t}における放射性原子核の数が  {N(t)}、そのときの崩壊速度が  {\dfrac{\mathrm{d}N}{\mathrm{d}t}} で、崩壊する数はその時点の総量に比例するのだから、微分方程式は見覚えのある形になります。

 {\dfrac{\mathrm{d}N}{\mathrm{d}t} = -kN}

解答・解説は省略しますが(どうしても気になる人は本を買って読んでください)、こちらは、放射性元素が指数関数的に減少していく結果が得られます。

まとめ

そんなわけで、今日は簡単な微分方程式のお話でした。

めでたし。

*1:これだけ行間の空いた支離滅裂なやりとりでも会話が成立していることに我ながら驚きです。

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