#雑談 システムの手触りとホスピタリティについて

先日、バスの運転手さんと話す機会があった。

実は彼と僕は同期の桜。 もともと同じ会社に勤めており、僕が一方的にライバル視していた優秀有能なインフラエンジニアだった。

やがて彼は様々な事情からIT業界を離れ、現職に就いて今に至る。

今日はそんな友人から聞いた、ある教訓めいたお話。

たーせるくんはいろんなところに一方的なライバルがいるんだね。

うるさい!

首都圏のバス業界はIT化が進んでおり、設備投資も惜しまないという。

しかしながら、システムを作る側から使う側に回って、色々気づいたことがあるという話を聞いた。

少し前、バスの料金機を更改したんだけど、現場の評判は非常に悪い

基本機能は従来とあまり変わらないものの、UI が物理キーからソフトキーに変更され、これが非常に使いにくいんだ。

どゆこと?

バスの運転手さんはね、実は停留所に到着する寸前から料金機を操作する準備をするんだ。

え、でも、目を離したら危険じゃない?

そうだね。 だけど物理キーなら、バスが完全に停まる前でも指先の感覚だけでボタンに指を掛けることができていた。

ソフトキーだとそれができない。

そうか…

それまで無意識にできていたオペレーションが奪われて、かえって不便になったんだね。

不便どころか、交通事故のリスクも上昇したんだよ。

バスの運転手さんは、安全運転と定時運行が最優先業務。

たった数秒のロスとはいえ、停留所に止まるたびにそれが累積すれば定時運行に支障が出るおそれもあるそうだ(特に停留所が多い路線の場合)。

さらに、もう一つ大きな問題点を挙げている。

停留所に着いたあと、運賃を設定するため、乗客から申告のあった停留所のボタンを押すんだけど、文字のフォントサイズが非常に小さいんだ。

せめて拡大機能があれば……

ユーザは、余裕のある状態でシステムを使うとは限らない

けっこう厳しい意見だね。

会社を離れて、システムを使う側に立って初めて気付くことも多いのかも知れない。

僕が思うに ──

システムを作る側から見て、『使う側が、どういう状況でそのシステムを操作するのか』という想像力がいまいち足りていない気がする。

ふむ……。

当たり前だけど、机の前にじっくり座って、全神経を集中させてシステムを操作してもらえるとは限らない。

たいてい、何かをしながら、その片手間にシステムを操作することが多い。

なるほど、運転手さんなんて特に、時間的な制約の中で操作を完了させないといけないよね。

うん。

開発中はつい忘れがちだけど、「ユーザがシステムに使われる」というのは、こういう状況を指すのだと思うよ。

常にモニタを見ていられるわけでもなければ、入力に時間的猶予がないケースも多い。

してや、物理キーのときにできていたオペレーションの直観性が、皮肉なことにプロダクトの進化によって損なわれてしまうことすらある。

残念だね。

アプリ屋の気持ちとしては、ソフトキー化によって画面が整理され、誤操作が減ると考えたんだと思う。

物理キーと違って、今押しちゃいけないボタンはそもそも画面に出てこなくなるからね。

うん。

でもその結果、触覚インタフェースが消えてしまった。

ユーザは触覚を頼りにシステムを直感操作できなくなってしまったんだ。

そうか!

この料金機を作った人たちは、バスの運転手さんが使うシステムから触覚インタフェースを取り除くことがどれほどの不便をもたらすか、想像力と配慮が足りなかったんだね。

誰が、どういう状況でそのシステムを使うのか ── という意識は本当に大事だね。

おしまい。

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