2025年も残すところあと僅かである。
思い起こせば今年も随分と濃密な1年であった。生成AIを取り巻く技術も革新が進み、外部環境も(昨年の今頃からは想像もつかないほど)大きく変化した。
ここには書けぬ話ではあるが、窮地に立たされ、もはやこれまでと思った事態も何度かあった。
── しかし、どんなに破滅的な状況であっても生活は続くわけで、命ある限り、歩みを止めるわけにはいかない。
さて本題に入ろう。
今年の締めくくりに、この1年で買って読んだ本から10冊、選りすぐって紹介していきたい。
立場や環境が変わり、仲間が増え、職務内容も変わったことで、去年とはだいぶ趣の異なるチョイスとなっている。
今年の10冊
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No.1 UIデザインのアイデア帳
まことに慙愧に耐えないことながら、『SEが考える画面のデザインはダサい』などと不名誉なことを言われ続けて久しい。実に耳の痛い話だが、そのような声を黙殺するわけにはもはやいくまい。
デザインがイケてないどころか、ユーザの生産性を奪いストレスを与える劣悪なシステムが猖獗を極めており、DXとか言葉だけオシャレにしている場合ではない。大変由々しき事態である。
そこでこの本である。
SEがつい見落としがちな、先人たちの設計センスや細やかな気遣いが可視化・知識化・体系化されており、そのどれもがいちいち尤もで具体的なので非常に腹落ち感がある。
本書を知らぬ存ぜぬと申す者は、とりあえず騙されたと思って数ページ程ぱらぱらと立ち読みして頂きたい。目から鱗が落ち、今のシステムに何が足りないのか、何をすればよいのか明確になるだろう。
話は変わるが、僕は子供の頃、国内メーカのプロダクトデザインが心底好きだった。たとえば MD のジョグダイヤルなんかは身体動作と状態遷移が一致していたし、目を使わなくても操作できる直感性もあった。
単に「動けばいいんでしょ」ではなく、利用者に寄り添う工夫が見られた。
ITシステムにもこうしたマインドは大事だろう。 ぜひ付箋を貼りつつ末長く手元に置きたい。
ちなみに今年、この本以外にもフロントエンドまわりの技術書を数冊買って読んだが(Figma, React, Tailwind CSSなど)、結局、ライブラリの進化や生成AIの毒牙を免れて生き残ったのはこれだけだったように思う。
No.2 コミック版ザ・ゴール4
個人的に大好きな『ザ・ゴール』シリーズ、待望の最新刊である。
今回のテーマは、ズバリ「在庫管理」。それも、スーパーの2階以上にある非食品商品という、需要予測や在庫管理が難しい業態を題材にしている。
(ちなみに食品の場合は、今年発売された『マンガ 統計学が最強の学問である』にも、時系列モデルを用いてビールの需要予測を行うくだりがあり、これはこれで面白いのでぜひお勧めしたい)
さて本書に話を戻そう。
非食品の場合、商品の粗利は食品より遥かに大きい。にも拘らず、多くの小売業が経営で苦しんでいる。 その核心は、在庫管理のまずさによる「欠品」や「過剰在庫」問題といわれている。
どの店でいつ何がどれだけ売れるか ── その決定要因があまりにも複雑すぎて、数理モデルによる精度の高い需要予測を行うこと自体が、現実的ではないのである。一方で、在庫が常に適正化された状態を維持できれば、驚くほど業績が改善する事も併せて語られる。
本書で語られる物語の主人公は、ひょんなことから在庫最適化のからくりに気付き、現場の業績を鮮やかな手腕で改善していく。この考え方は面白く、メガクラウドのベンダがデータセンタの計算機資源を無駄なく活用する仕組みによく似ているのだ。
不確実性の高い在庫管理をシステム的に最適化するため、いわゆる制御理論の考え方が導入される。
実はそのようなシステムは既に世の中で稼働しているので、本書の内容が単なる机上論や絵空事でないことが分かる。
「人は危機に追い詰められた時、誰しも天才になる」とは、原著者である故・エリヤフ=ゴールドラット博士の言である。今年はこの言葉にどれほど救われてきたことだろう。
No.3 絶体絶命でんぢゃらすじーさん 大長編これくしょん(上)
平成世代のキッズがみんな読んだであろう『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』。その大長編が全作品収録された奇跡の書がついに刊行された。
長い連載の中で、特に後半は作者のギャグのキレが失速する話なんかもあり、それでも強いメッセージだけはしっかり込められている。
全話が超名作なのだが、個人的にベスト3は次の3作品。
◆ みょみょみょ星人 木村 (2003年)
しかし003号は、実は侵略目的で地球に送り込まれた捨て駒で、本人も知らずに体には時限爆弾が仕込まれていた。
上官の冷酷さを悟った003号は、爆弾を背負い捨身で上官の宇宙船へと飛び込む。
じーさんから親切にされたことを嬉しそうに報告する003号に対して、上官が「死ね」と言葉を被せ、ギャグから一転してシリアスに突き落とされる。
そこから003号が自我を取り戻す流れがとにかくいじらしくて泣ける。
現代のトロッコ問題だこれ。
◆ 放たれた友情だじょー (2006年)
念願叶ってこの世に親友を蘇らせることに成功したが、じーさんは「オマエの友情は絶対に間違っている」と一蹴する。
「人は一人では生きられない。助け合う友情の何が悪い」と抗弁するジョーだが……。
悪気なく友情が破綻するケースは大人でも往々にしてあり、その報われない末路もかなりリアルである。
◆ いのちときもちとぱぱぱぱぱー (2009年)
偶然地下に迷い込んだゲベは、檻に閉じ込められていた柴犬を助け出そうとするが、本性を現した店長に見つかり、柴犬は撃ち殺され、ゲベも深傷を負う。
これは、ある意味で純粋な子供が素直な気持ちで読んで、どのように心が動いたかをありのまま噛み締めるのがよいと思う。
掲載当時(平成中期)、ペットショップで売れ残った動物がどうなるかは、「知らない方が幸せな秘密」のひとつだった。
店長も「みんなやっている」「生かして逃がしたら、街に犬猫が増えて売上が落ちる」と言うように、悪徳ペットショップひとつ潰したところで何の解決にもならない状況だったのである。
ゲベは、たまたま仲良くなった柴犬を仲間だと認識して助け出そうとしたが、地下室にいた他の個体を結果的に見殺しにしている。
これはもう、人が助けられないものをゲベが助けられるはずがないじゃないか、と綺麗事抜きに割り切るしかない。
ちなみに僕はこの話を出張帰りの新幹線で読んで泣いた。
No.4 AWS生成AIアプリ構築実践ガイド
2025年は『とりあえずRAG (Retrieval-Augmented Generation)』 または『とりあえず MCP (Model Context Protocol)』みたいな案件の引き合いが殊の外多く、時代の変化の渦中にいることを否応なく実感させられた。
この本は理論と実践のバランスが良く、前半で概念や諸サービスの内容を大まかに学んだあと、後半で構築の実践、そして本番導入と運用に向けた勘所が丁寧に述べられている。
S3 VectorsやBedrock AgentCoreをはじめとする新サービスにいち早くキャッチアップしたのも本書である。おもちゃが多すぎて遊びきれない僕にとって大いに役立った。
個人的にはどちらかというと、この本を管理職のようなロールにこそ勧めたい。 最近のクライアントは、とりあえずビールのノリで「とりあえず RAG」を求める傾向にあり(※ 当社比)、ソリューションを具体的にイメージすべき立場の人間は当然の如く心得ていなければならない。
そして、バリバリの開発者でなくとも実践できる、程よいハンズオンがまた良い。一度でも手を動かしてみると、RAG や AIエージェントが「未知の謎技術」ではなくなるはずである。
No.5 はじめてのAWS モダンアプリ
また AWS か! 似たような本ばかり紹介しやがって! と言われそうだが、ちょっと待ってほしい。
この本は Amplify Gen2 を用いたアプリ開発特化型の解説書なのである。 僕が知る限り、Amplify Gen2 とその周辺(Cognito や AppSyncなど)を実践的に解説した書籍は中々に貴重である。
AWS の入門書といえば、VPC や EC2 といったインフラリソースを入り口とするものが多いが、アプリケーションエンジニアの関心はそこにはなく、いかに(差別化に繋がらない重労働を排除して)爆速でアプリケーションをデプロイできるかだろう。
一方で、こうしたアプリレイヤのAWSサービス群は謎も多く、『使いこなしたら便利なんだろうけど、使い方がよくわからない』『よくわからないサービスを使って事故るくらいなら、普通に作ったアプリをコンテナに乗せて動かす方が安心』と二の足を踏みがちである。
この本はそんなアプリエンジニアのニッチなストライクゾーンに見事アプローチしている。
バックエンドが最先端アーキテクチャなのに、肝心のフロントエンドが Streamlit では画竜点睛を欠くというものだ。ぜひキミだけのオリジナルアプリを爆速開発 & デプロイできるようになろう。
さらに驚いたのが、チャットアプリの会話履歴を管理するDynamoDBのテーブル設計の技巧である。知らない限りまず思いつかないハイレベルなテクニックは見事としか言いようがない。
特にPartitionKeyとSortKeyは「その手があったか」と雷撃に打たれたような衝撃を受けた。これがラストで語られる最終秘奥義である。本当に入門書なのか。
とりあえずサービス単品の使い方を解説する系の書籍だと、この手の設計の必要性や真髄を語ることは難しい。本書のようなフルスタックの積み上げ型ハンズオン書籍だからこそだろう。
No.6 MCPサーバー開発大全
今年、一気に人口に膾炙した MCP サーバである。 FastMCP で「とりあえず動く MCP サーバは作れるようになったけど何かが物足りない……」という人のための本。
内容は、公式サンプルの解説をはじめ、複雑で実用的なMCPサーバの設計、テスト戦略、CI/CD まで、ひととおり広く解説されている。
それも、表面的でありきたりな内容ではなく、マイクロサービスのアーキテクチャ設計やベストプラクティスに裏打ちされた深い考察が散りばめられているのだ。
たとえば、既存の外部APIを呼び出すMCPツールの場合、APIキーやレート制限がまず問題になる。
また、複数のツールを連携する際には、ツール呼び出しの順序を保証したいといった要件も出てくるだろう。
開発の初期段階では気付きづらい(でもいずれ検討が必要となる)これらの課題について、きちんと指針や解法を示しており、そういう意味でもおそらく2025年末現在、日本語で読めるMCPサーバ開発本としては屈指の情報量であり、「大全」の名に相応しい。
一読してあまりの完成度と内容の深さに唸り、MCP本を一冊だけ無人島に持っていくならこの本しかあり得ないと確信した。 類書は速報性重視であったり、(どの本がとは言わないが)文体が生成AIそっくりな文章をそのまま載せていたりと玉石混淆の中で、この本はひときわキラキラと光を放っていた。
No.7 線形代数の半歩先
今ではもう昔の話だが、僕はかつて大学の情報工学科に在籍していた。
プログラミングが好きだったのだが、数学も決して嫌いではなく、とりわけ線形代数に心惹かれたものである。
とはいえ、大学の教科書は無味乾燥の極致であり、面白さを見出したのは単位を取ったその後のことである。かつて TM Network が「教科書は何も教えてはくれない」と歌っていたが、さすがにそれは言い過ぎだとしても、確かに初年級の教科書だけだとお楽しみ要素は乏しい。
この本は、線形代数を学んだ人が見るであろう「その先の景色」を先取りする本である。
初めは大学1年生からでも楽々読めるほど、なだらかな散歩道が続く。しかし、一般的な教科書とは異なるルートでの散策が始まる。
2部は関数を線形代数的に捉え直し、内積や直交性の議論を経てフーリエ変換へと繋がっていく。
3部は個人的に大好物で、データサイエンスや機械学習の必須知識が続く。 ── 具体的には、最小二乗法や特異値分解、主成分分析、擬似逆行列など。
この辺までくると、学部の範囲をやや超える話題も出てくるが、平易な解説、豊富な図版、丁寧な式変形と、かなり親切な設計になっている。
もし僕が大学1年生の頃にこの本と出会えていたら、きっと僕の学びはさらに豊かなものになっていたかも知れない。
No.8 世界のエリートが学んでいる教養書必読100冊を1冊にまとめてみた
昔、『ロンドン ベスト100 - 音のカタログ-』という、様々なクラシック音楽のハイライトだけを収録した100曲入りのCDがあった(このCDは販促用の非売品であったため、市場には流通していない)。
時の作曲家たちが人生を懸けて後世に残した名曲の数々を、わずか80分で味見できるという大変贅沢な1枚であった。 本物の音楽好きからすると邪道かも知れないが、脳内に100曲分のインデックスができたことでその後の僕の人生は多少豊かになったと思っている。
この本もコンセプトが非常によく似ている。 古今東西の歴史的名著100冊分のエッセンスが、1冊あたり僅か6ページ前後に圧縮され、さらに著者独自の視点で「軽い読み物」に再構築されている。
現代人は非常に多忙で、いつ役立つとも知れぬ教養のために専門外の退屈で難解な本を100冊も読み込むエネルギーなど到底持ち合わせていない。 そこでこの本である。
キャッチーなタイトルとは裏腹に、並々ならぬ著者の熱量が注がれた一冊だろう。鈍器のようなボリューム感でありながら、スッと脳に入ってくる。
一読するだけで、超お手軽に巨人の肩の上に乗れるようになるため、思考の質も上がる。
本書の初版発売は2023年で、当時はおそらく想定していなかったユースケースかも知れないが、生成AIと対話する際も本書が役に立つだろう。
No.9 E判定からの限界突破勉強法
改めて、限界突破というのは凄絶な意味を持つ言葉である。「できる範囲の努力」といった生ぬるいものではなく、目的達成のために不要なものは全て捨てるくらいの残酷な覚悟すら必要な局面がある。況やE判定からの逆転合格においてをや。
高い目標に向け、時に本能に逆らいながら長期的に努力を継続するというのは辛いものである。
そもそも自分との戦いは孤独であるし、上を目指す人間の苦悩はおよそ凡人には理解されないものだろう。
話は変わる。
今年、管理職に就いてみてつくづく思うのだが、知恵や知識だけでは乗り越えられない困難が日常的に襲いかかってくる。それもよりによって最悪のタイミングでアクシデントが重なるのだ。心安らかに過ごせた日などあっただろうか。
── そんなあるとき、特に大した用事もなく立ち寄った書店でたまたまこの本が目に留まり、食い入るように読んでしまった。
この本に書いてあることは、高みを目指す受験生のみならず、僕のような名も無き社会人が読んでも身の引き締まる思いである。 誤解を恐れずに言えば、この本に書いてあることの殆どは根性論である。
殆ど同じ知識と技能を持った2人の人間がいるとして、その2人のどこで差がつくかといえば、自分自身に対する厳しさだろう。強靭なメンタリティの持ち主は、おしなべて達成能力が高い。
僕が個人的に尊敬してやまない戦友も ── 本人は決して自分から語ることはないが ── 絶対に成し遂げねばならない事物の前では目の色が変わる。ヘタレな僕にはそれが決定的に足りない。
ちょっと挫折したらすぐ諦めることが頭に浮かんでしまう ── そんな弱さを乗り越える勇気を、この本は与えてくれる。
自分の生きてきた範囲だけで、自分基準の閾値で、安易に「頑張った」と言うべきではない。
戦うべき相手は、さらにその上を行こうとしているわけで、自分がいかに甘い世界にいるかを自覚せねばならない。
余談だが、この本には南極老人という(半ば神格化された)謎の人物が登場する。氏の正体は終始秘密のベールに包まれているが、それは別にサンタクロースみたいなものでこの際どうでもいい。南極老人の真実を追求することは、読者の目指すべき真のゴールと全く関係ないのだ。
No.10 AIを使って考えるための全技術
これまた鈍器のような本である。
もはやChatGPTを使わない日は無いと言っていいほど、生成AIは身近な存在になった。
しかし嘆かわしいことに、利用者の裾野が広がったためか、AIの使い方が致命的に残念な人間が後を絶たない。
薄っぺらいAIの応答をそのままTeamsチャットにドヤ顔で貼っただけで仕事をした気になっている戯け者から、甚だしきに至っては昇格査定の論述課題をAIに丸投げして悲惨なクオリティの答案を提出する者まで、どいつもこいつも全く始末に負えない状況である。
ここまで杜撰だと、いずれ部下を持ったときに判断を誤り、無駄な犠牲を増やしかねないので、個人的にそういうAIの使い方は(今のところ)歓迎しないのである。
とはいえ、生身の人間の単位時間あたりの思考量はたかが知れている。
知恵を絞り尽くすにも時間がかかるし、どうしても疲れてくると視野も狭まってしまう。
そこでこの本である。
この本は、人間の思考力の限界を押し拡げ、より高く、より広く、より深く届くようになるための技術が惜しげなく収録されている。
試しにこのエッセンスを、夏の短期インターンシップのアイディアソンの中で学生に実践してもらったところ、実現性はさておきかなり面白いアウトプットが生まれた。その効果は絶大で、様々な制約条件がなるべく同時成立する領域で社会人顔負けの絶妙なソリューションを編み出していたのである。
思考が立体化するとはこういうことか。
いやはや、爪の垢を煎じて飲みたいものである。
まとめ
というわけで、今年も10冊を選んでみた。昨年とは打って変わってジャンルの固定化が進んだように見える。
今年は深化の年と位置付けていたが、それが却って近視の度数を上げてしまったようであり反省すべき点かも知れない。つまり、今ある技術のキャッチアップは進んだが、そこで止まってしまい、振り返ってみても景色の広がりに乏しいことに愕然とした。
実際に買って読んだ本はもう少しバラエティに富んでいるのだが、僕の理解力不足で挫折してしまったり、読もうと思って読めていないものなんかもある(みのるん氏のAIエージェント本は、冬休みのお楽しみのために敢えて取っておいた。ショートケーキのイチゴを最後に食べるのと同じ理論)。
なんだかんだ言って、本のチョイスは自分自身を映す鏡のように思う。 このブログをお読みの方にとって、なにか1 冊でも心に響く書籍があれば幸いである。
それでは皆さま、良いお年を。









